札幌地方裁判所 昭和56年(ワ)1102号 判決 1987年5月11日
甲事件原告(乙事件被告)
生沼玲子
甲事件原告(乙事件被告)
石井宏明
甲事件原告(乙事件被告)
川端玖美子
甲事件原告(乙事件被告)
石井敏明
右四名訴訟代理人弁護士
福岡定吉
右訴訟復代理人弁護士
島津宏興
甲事件被告(乙事件原告)
碓井市之助
右訴訟代理人弁護士
藤井正章
右訴訟復代理人弁護士
村田栄作
同
二宮嘉計
甲事件被告
碓井三郎
甲事件被告
宮内ハルヱ
右両名訴訟代理人弁護士
西村洋
同
松浦正典
主文
一 別紙物件目録記載の一及び四の各土地をそれぞれ甲事件原告(乙事件被告)生沼玲子、同石井宏明、同川端玖美子、同石井敏明の各共有持分四分の一の共有とする。
別紙物件目録記載の三、六、九及び一〇の各土地を甲事件被告(乙事件原告)碓井市之助の所有とする。
別紙物件目録記載の二の土地を甲事件被告碓井三郎の所有とする。
別紙物件目録記載の五、七及び八の各土地を甲事件被告宮内ハルヱの所有とする。
二 右共有物分割の裁判が確定したときは、甲事件被告(乙事件原告)碓井市之助は、甲事件原告ら(乙事件被告ら)それぞれに対し、別紙物件目録記載の一及び四の各土地の各一〇分の一の共有持分につき、それぞれ共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
右共有物分割の裁判が確定したときは、甲事件被告碓井三郎、同宮内ハルヱは、甲事件原告ら(乙事件被告ら)それぞれに対し、別紙物件目録記載の一及び四の各土地の各二〇分の一の共有持分につき、それぞれ共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
三 甲事件原告ら(乙事件被告ら)のその余の請求を棄却する。
四 甲事件被告(乙事件原告)碓井市之助の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、甲事件原告ら(乙事件被告ら)に生じた費用と甲事件被告(乙事件原告)碓井市之助に生じた費用を甲事件被告(乙事件原告)碓井市之助の負担とし、甲事件被告碓井三郎、同宮内ハルヱに生じた費用を甲事件被告碓井三郎、同宮内ハルヱの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 甲事件
1 甲事件原告ら(乙事件被告ら。以下甲事件原告を「原告」という。)の請求の趣旨
(一) 別紙物件目録記載の一及び四の各土地をそれぞれ原告生沼玲子、同石井宏明、同川端玖美子、同石井敏明の各共有持分四分の一の共有とする。
(二) 甲事件被告ら(以下甲事件被告を「被告」という。)は、原告らに対し、別紙物件目録記載の一及び四の各土地の被告らの共有持分につき、共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
二 乙事件
1 被告市之助の請求の趣旨
(一) 原告らは、被告碓井市之助に対し、別紙物件目録記載の一ないし八の各土地の共有者石井ミサの五分の一の共有持分につき、昭和二九年七月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(二) 原告らは、別紙物件目録記載の九及び一〇の各土地の共有者碓井仁次郎の持分二分の一につき、昭和二七年九月一六日遺産分割を原因として、碓井市之助(持分一〇分の一)、碓井三郎(持分一〇分の一)、田巻ハナ(持分一〇分の一)、石井ミサ(持分一〇分の一)及び宮内ハルヱ(持分一〇分の一)に対し所有権移転登記手続をなし、共有者村川嘉一の持分二分の一につき、昭和二七年九月一六日共有物分割を原因として、碓井市之助(持分一〇分の一)、碓井三郎(持分一〇分の一)、田巻ハナ(持分一〇分の一)、石井ミサ(持分一〇分の一)及び宮内ハルヱ(持分一〇分の一)に対し所有権移転登記手続をなしたうえ、被告碓井市之助に対し、共有者石井ミサ持分につき、昭和二九年七月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(三) 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する原告らの答弁
(一) 被告碓井市之助の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は被告碓井市之助の負担とする。
第二 当事者の主張
一 甲事件
1 原告らの請求原因
(一) 別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)は、もと碓井仁次郎(以下「仁次郎」という。)が所有していたところ、昭和二七年三月一八日同人が死亡し、同年九月一六日相続人による遺産分割協議の結果、相続人のうち石井ミサ(以下「ミサ」という。)被告碓井市之助(以下単に「被告市之助」という。)、被告碓井三郎(以下単に「被告三郎」という)、同宮内ハルヱ(以下単に「被告ハルヱ」という。)及び田巻ハナ(以下「ハナ」という。)の五名がそれぞれ五分の一の共有持分を取得した。
(二) ハナは、昭和二七年九月一七日、本件各土地の共有持分を被告市之助に贈与した。
(三) ミサは、昭和五一年一〇月二日死亡し、石井格次郎(以下「格次郎」という。)はミサの配偶者、原告生沼玲子(以下単に「原告玲子」という。)、同石井宏明(以下単に「原告宏明」という。)、同川端玖美子(以下単に「原告玖美子」という。)、同石井敏明(以下単に「原告敏明」という。)はいずれもミサの子であるが、遺産分割協議の結果、ミサが有していた本件各土地に対する五分の一の共有持分につき、それぞれの五分の一にあたる二五分の一の共有持分を取得した。
格次郎は、昭和五六年一一月三〇日に死亡し、原告らはいずれも格次郎の子として格次郎が有していた本件各土地に対する二五分の一の共有持分をそれぞれ四分の一宛相続し、その結果本件各土地につきそれぞれ各二〇分の一の共有持分を取得した。
(四) 原告らは、昭和五六年一月、札幌簡易裁判所に共有物分割調停の申立をなし、被告らに対し本件各土地のうち一ないし八の土地の共有物分割を請求したが、協議が調わない。
(五) 本件各土地のうち一ないし八の土地にはそれぞれ、被告市之助の持分が五分の二、同三郎、同ハルヱの持分が各五分の一とする登記がなされている。
(六) よつて、原告らは、民法二五八条一項に基づき本件各土地の分割を請求し、分割の方法として、本件各土地のうち一及び四の各土地をそれぞれ原告ら四名の各共有持分四分の一とする共有とすることを求め、さらに被告らに対し、右各土地についての被告らの各共有持分につき、共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をなすことを求める。
2 請求原因に対する被告らの認否
(一) 被告市之助
請求原因第(一)、(二)項の事実は認める。
同第(三)項のうち、ミサが昭和五一年一〇月二日死亡したこと、格次郎がミサの配偶者であること、原告らがいずれもミサの子であることは認め、その余の事実は否認する。
同第(四)、(五)項の事実は認める。
(二) 被告碓井三郎、宮内ハルヱ
請求原因(一)ないし(五)項の事実は認める。
同被告らは、本件各土地のうち二の土地を被告三郎の、五、七、八の各土地を被告ハルヱの所有とする旨の分割を求める。被告ハルヱは、この土地を被告三郎の単独所有とする旨の分割をすることに異議はない。
3 被告市之助の抗弁
ミサは、昭和二九年七月三〇日ころ、被告市之助に対し、本件各土地の五分の一の共有持分を贈与した(以下「本件贈与」という。)。
4 抗弁に対する原告らの認否
否認する。
5 原告らの再抗弁
原告らは、被告市之助に対し、昭和五六年七月二四日の乙事件の口頭弁論期日において、本件贈与を取消す旨の意思表示をした。
6 再抗弁に対する被告市之助の認否
明らかに争わない。
7 被告市之助の再々抗弁
(一) ミサは、被告市之助に対し、本件贈与契約を締結したところ、本件各土地の引渡しを了し本件贈与の履行を終了しているから、原告らは、もはや本件贈与を取消すことができない。
(二) 本件贈与において、ミサは、昭和三二年六月二六日、被告市之助からミサがすでに支払つていた昭和二八年度の同人負担分の本件各土地の相続税と同額の金員の支払を受けた際に、同被告に右相続税の支払領収書を交付し、被告市之助は昭和二九年度以降のミサの相続税をすべて支払い、支払領収書の交付を受けた。右各領収書はミサと被告市之助間の本件贈与の成立を推認しうる書面であり、本件贈与は書面による贈与である。したがつて、原告らは本件贈与を取消すことができない。
(三) 本件贈与は、ミサの父仁次郎の死亡によりミサが支払うべき相続税を被告市之助がすべてミサに代わつて支払うという被告市之助の負担付であり、被告市之助は、負担であるミサの相続税の支払の履行を終了している。したがつて、原告らは、本件贈与を取消すことができない。
8 再々抗弁に対する原告らの認否否認する。
二 乙事件
1 被告市之助の請求原因
(一) 本件各土地のうち一ないし八の土地は、もと仁次郎が所有していた。
本件各土地のうち九及び一〇の土地は、もと仁次郎と村川嘉一(以下「村川」という。)の共有であつたところ、昭和二六年三月一〇日、仁次郎と村川との共有物分割協議の結果、仁次郎の単独所有となつた。
(二) 仁次郎は、昭和二七年三月一八日死亡し、相続人のうちミサと被告ら三名及びハナの五名は、同年九月一六日、相続人による遺産分割協議の結果、本件各土地につき、それぞれ五分の一の共有持分を取得した。
(三) ミサは、昭和二九年七月三〇日ころ、被告市之助に対し、本件各土地の五分の一の共有持分を贈与した。
(四) ミサは、昭和五一年一〇月二日死亡し、ミサの配偶者の格次郎も昭和五六年一一月三〇日に死亡し、原告らはいずれもミサと格次郎の間の子として右両名の権利義務を相続した。
(五) 本件各土地のうち九及び一〇の土地には、村川と仁次郎が各共有持分二分の一とする登記がなされている。
(六) よつて、被告市之助は、ミサとの本件贈与契約に基づき、ミサ及び格次郎の相続人である原告らに対し、本件各土地のうち一ないし八の土地の共有者ミサの五分の一の共有持分につき、昭和二九年七月三〇日の贈与を原因とする所有権移転登記手続をなすこと及び本件各土地のうち九及び一〇の土地の共有者仁次郎の持分二分の一につき、昭和二七年九月一六日遺産分割を原因として、被告市之助(持分一〇分の一)、同三郎(持分一〇分の一)、同ハルヱ(持分一〇分の一)、ハナ(持分一〇分の一)及びミサ(持分一〇分の一)に対し所有権移転登記手続をなし、共有者村川の持分二分の一につき、昭和二七年九月一六日共有物分割を原因として被告市之助(持分一〇分の一)、同三郎(持分一〇分の一)、同ハルヱ(持分一〇分の一)、ハナ(持分一〇分の一)及びミサ(持分一〇分の一)に対し所有権移転登記手続をなしたうえ、共有者ミサ持分につき、昭和二九年七月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をなすことを求める。
2 請求原因に対する原告らの認否請求原因第(一)、(二)項の事実は認める。
同第(三)項の事実は否認する。
同第(四)、(五)項の事実は認める。
3 原告らの抗弁
甲事件の再抗弁のとおりである。
4 抗弁に対する被告市之助の認否
甲事件の再抗弁に対する認否のとおりである。
5 被告市之助の再抗弁
甲事件の再々抗弁のとおりである。
6 再抗弁に対する認否
甲事件の再々抗弁に対する認否のとおりである。
第三 当事者の提出、援用した証拠<省略>
理由
一甲事件
1 以下の事実は当事者間に争いがない。
(一) 本件各土地は、もと仁次郎が所有していたところ、昭和二七年三月一八日同人が死亡し、同年九月一八日相続人による遺産分割協議の結果、相続人のうちミサ、被告ら三名及びハナの五名がそれぞれ五分の一の共有持分を取得した。
(二) ハナは、昭和二七年九月一七日、被告市之助に本件各土地の共有持分を贈与した。
2 被告市之助は、昭和二九年七月末ころ、ミサから本件各土地の五分の一の共有持分の贈与を受けた旨の抗弁を主張するので、この点について判断する。
(一) 被告市之助本人尋問の結果中には、ミサは、昭和二九年七月末ころ、被告市之助が岩見沢市にミサを訪ねた際、同被告に対し、自分では土地を管理できないし、被告市之助が家業の手伝いをしてきたからとの理由で前記遺産分割協議の結果により取得した本件各土地の五分の一の共有持分を被告市之助に贈与するとの申出をなし、被告市之助もそれを了承したとの供述がある。
又、前記の争いのない事実に、<証拠>を総合すると、ミサは、前記遺産分割協議の結果により取得した本件各土地の五分の一の共有持分につき、相続税の分納を認められ、昭和二九年三月二三日に昭和二八年度分の相続税を支払つたが、同年七月末ころ、被告市之助との間で、昭和二九年度分以降の相続税を被告市之助が支払うことを合意し、被告市之助は、ミサの支払つた昭和二八年度分の相続税の領収書をミサから受け取り、その後昭和二九年度分以降の相続税をすべて被告市之助が支払い、昭和三二年六月一九日に前記ミサの支払つた昭和二八年度分の相続税に相当する金員をミサに支払つたこと、被告市之助はミサの負担すべき本件各土地の五分の一の共有持分についての固定資産税を支払つていることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) しかし、<証拠>を総合すると、被告市之助は、昭和三〇年以降、他の相続人の了解のもとに、仁次郎の遺産である土地の一部を三、四回売却したが、その際、ミサにも売却代金を分配していること、被告市之助は、ハナ、被告ハルヱの分の相続税のすべてを支払い、被告三郎の分の相続税の一部を支払い、本件各土地の固定資産税もすべて支払つていること、他方被告市之助は相続開始後現在に至るまで本件各土地を賃貸したり、耕作したりして管理し収益を上げていることが認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 右認定の(二)の事実によれば、被告市之助は本件各土地と同様に相続財産となつた不動産の売却に際し、ミサを共有者として取り扱つていたということができる。又、被告市之助は、ミサの分に限らず本件各土地の共有者の相続税、固定資産税を支払い、本件各土地を利用して収益を上げていたものと認めることができる。したがつて、前記(一)で認定したように、被告市之助がミサの負担すべき相続税、固定資産税を支払つていたからといつて、そのこと自体ミサの共有持分の贈与を証する決定的な事実とはいい難く、又、ミサから共有持分の贈与を受けたとする被告市之助の前記供述はにわかに措信し難く、他にミサから被告市之助に対する共有持分の贈与の事実を認めるに足りる証拠はない。
3 原告らは、ミサの取得した本件各土地の五分の一の共有持分を相続により取得したと主張する。
(一) ミサが、昭和五一年一〇月二日に死亡し、ミサの配偶者の格次郎も昭和五六年一一月三〇日に死亡し、原告らがいずれも格次郎とミサの間の子であることは当事者間に争いがない。
(二) 弁論の全趣旨によれば、ミサの死亡後、格次郎と原告ら四名は、遺産分割協議の結果、ミサが有していた本件各土地に対する五分の一の共有持分について、それぞれその五分の一にあたる二五分の一を共有持分として取得する旨の合意を結んだこと、原告らは昭和五六年一月三〇日に格次郎が死亡したことにより、いずれも格次郎の子として、格次郎が有していた本件各土地に対する二五分の一の共有持分をそれぞれ四分の一宛相続したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、本件各土地について、原告らが各二〇分の一、被告市之助が五分の二、被告三郎、同ハルヱが各五分の一の共有持分を有する共有関係にあるものということができる。
4 格次郎と原告ら四名が昭和五六年一月、札幌簡易裁判所に共有物分割調停の申立をなし、被告らに対し、本件各土地のうち一ないし八の土地の分割を請求したが、協議が調わなかつたことは、当事者間に争いがなく、九及び一〇の土地についても協議が調わないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、裁判をもつて分割をなすべき場合に該当することになる。
5 そこで次に、分割方法について検討する。
(一) まず、本件各土地の位置関係等についてみることとする。
(1) 鑑定人栗谷川守男の鑑定結果によれば、以下の事実が認められる。本件各土地の位置関係は別紙図面表示のとおりである。本件各土地のうち一ないし八の各土地は、札幌市都心部の北東方約二キロメートル地点の東区光星地区に所在し、七の土地は市道東八丁目篠路通と市道北九条通との交差点の東方約一〇〇メートル地点の北九条通沿北向に位置する宅地であり、一ないし六及び八の各土地は七の土地の北方道道札幌茨戸線と市道北九条通との間に位置する一団の宅地である。五と六の土地の南西側と二ないし四の土地の北東側とは、市道鉄東二号線を隔てて対向しており、一の土地の東側と二の土地の西側とは市道鉄東二三号線を隔てて対向している。二と三の土地、五と六の土地はそれぞれ隣接している。八の土地は、七の土地の東方約三五〇メートル地点の仲通沿、新穂公園の南側に位置する宅地である。
本件各土地のうち九及び一〇の各土地は、七の土地の北方約一キロメートル地点の東区美香保地区に所在し、九の土地は七の北方約一キロメートル地点の市道東八丁目通と札幌大谷学園の間に位置する宅地であり、九の土地の北側と一〇の土地の南側は、市道光星二四号線を隔てて対向している。
(2) 以上認定の事実によれば、本件各土地のうち一ないし六の各土地は外形上一団を形成し、七及び八の各土地もこれらの土地に近接しているということができる。そして、九及び一〇の土地についてもこれらの土地とたかだか一キロメートルほど離れているにすぎないものということができる。
(二) ところで、本件各土地を一筆ごとに現物分割することとした場合には、原告ら、被告らの取得すべき土地は細分化されることになり、現在各土地につき二〇分の一の持分を有する原告らはもとより、被告らにとつてもその利益に適うものとは言えず、社会経済上も相当とは思われない。本件においては、前記認定のとおりの本件各土地の位置関係からみてこれを一団としてとらえることは可能であり、又、本件弁論の全趣旨によれば、原、被告らにおいても本件各土地が一団を構成しているものとの意識をもつていることも明らかである。そして、裁判上の共有物分割が非訟事件としての性質を有し、分割にあたつては、当事者間の公平を旨とすべきであり、かつ、本件分割が実質上遺産分割の実現に等しいことからみて、民法九〇六条の立法趣旨をも斟酌すれば、本件各土地を一団として分割することも現物分割の方法として許されるものと解するのが相当である。さらに、本件のように共同原告が一筆もしくは数筆の土地を共同原告の共有とすることを求める場合に、一筆もしくは数筆の土地を共同原告の共有とすることも現物分割の方法として許されるものと解するのが相当である。
(三) 以上の観点から本件各土地を一団とみて、どのように現物分割するのが相当かについて検討する。
(1) 前掲鑑定結果によれば、本件各土地の現況により、それぞれ更地、自用地、貸家建付地及び借地権の付着した底地としての正常価格を算出すると、昭和六一年二月二四日現在で、一の土地の評価額は七一四四万五〇〇〇円、二の土地の評価額は二億三二四二万四〇〇〇円、三の土地の評価額は三七六五万九〇〇〇円、四の土地の評価額は一億二七五〇万円、五の土地の評価額は一億二一〇九万七〇〇〇円、六の土地の評価額は一億一五八六万五〇〇〇円、七の土地の評価額は一九六三万一〇〇〇円、八の土地の評価額は二五四五万二〇〇〇円、九の土地の評価額は二億三二七八万一〇〇〇円、一〇の土地の評価額は六五〇九万三〇〇〇円であり、本件各土地の総評価額は一〇億四八九四万七〇〇〇円であることが認められる。
(2) 原告らの本件各土地に対する共有持分の割合の合計は五分の一であるから、総評価額に対しこれを乗じると、二億〇九七八万九四〇〇円となる。原告らが、分割方法として、原告らのみの共有とすることを求めている一及び四の土地の合計評価額は一億九八九四万五〇〇〇円であるから、原告らの共有持分の割合にあたる金額を下回ることとなる。数筆の土地を一団として一括して分割する場合、各共有者の共有持分の割合にあたる金額と分割帰属される土地の価額とを完全に合致させることはほとんど不可能であるから、共有者間の価値の均衡をどのようにして計るべきかが問題となるが、本件のように原告らが分割帰属を求めている土地の価額が共有持分の割合にあたる金額を下回る場合には、原告らは共有持分の一部を放棄しているものとみることができ、被告にとつてはなんら不利益、不公平を生じないから、原告らの希望を尊重して分割方法を定めることができるものといいうるところ、本件各土地のうち一の土地と四の土地を原告らに分割帰属させることを不相当とするような特段の事情は存しないから、右のとおり分割することとする。
(3) 被告三郎は、本件各土地を分割する場合の分割方法として、二の土地が自己の所有となることを希望し、被告ハルヱは五、七、八の各土地が自己の所有となることを希望している。共有物の分割方法として、数個の共有物を一団として一括して分割する場合において、被告らにおいても一筆若しくは数筆の土地を自己に帰属させることを希望する意思を表示している場合には、それが他の共有者に不利益、不公平を生じない限り、それを尊重して分割方法を定めるのが相当である。
前掲鑑定結果によれば、被告三郎が自己の所有となることを希望している二の土地の評価額は二億三二四二万四〇〇〇円であり、被告ハルヱが自己の所有となることを希望している五、七、八の土地の評価額合計は一億六六一八万円である。これを本件各土地の総評価額に対する両名の共有持分の割合である五分の一にあたる金額である二億〇九七八万九四〇〇円と比較すると、被告三郎の希望する土地の評価額はこれを二二六三万四六〇〇円上回り、被告ハルヱの希望する土地の評価額はこれを四三六〇万九四〇〇円下回ることになるが、被告ハルヱは二の土地を被告三郎の単独所有とする旨の分割をすることに異議がない旨を明らかにしているから、被告ハルヱにおいて持分の一部を被告三郎に譲渡しているものとみることができる。そして、二、五、七、八の各土地の評価額合計は三億九八六〇万四〇〇〇円であり、これを本件各土地の総評価額に対する右被告両名の共有持分の割合の合計である五分の二にあたる金額である四億一九五七万八八〇〇円と比較すると、前者は後者を二〇九七万四八〇〇円下回つているから、それについては被告ハルヱが持分の一部を放棄しているものとみることができ、相被告の被告市之助にとつてはなんら不利益、不公平を生じないから、右被告両名の希望を尊重して分割方法を定めることができるものといいうるところ、本件各土地のうち二の土地を被告三郎に、五、七、八の各土地をハルヱに分割帰属させることを不相当とするような特段の事情は存しないから、右のとおり分割することとする。
(4) 以上の結果、被告市之助に分割帰属させる土地は、本件各土地のうち、三、六、九、一〇となる。前掲鑑定結果によれば、その評価額合計は四億五一三九万八〇〇〇円であり、本件各土地の総評価額に対する被告市之助の共有持分の割合である五分の二にあたる金額である四億一九五七万八八〇〇円を上回るものであるが、これは他の共有者の希望を尊重した結果であるから、何ら当事者間の公平を損なうものではない。又、前記鑑定結果及び弁論の全趣旨によれば、三の土地は現在被告市之助所有の木造二階建住宅の敷地となつていることが認められるから、被告市之助の所有とするのがもともと適当なのであつて、このような分割方法は相当なものということができる。
6 本件において、原告らは、被告らに対し、本件各土地のうち一及び四の土地についての被告らの各共有持分につき、共有物分割を原因とする所有権移転登記手続をなすことを求めている。
ところで、原告らのこの訴えは、現在の給付を目的とする訴えと解されるが、共有物分割の効果が共有物分割の形成判決の確定によつて生ずる以上、現在の給付請求としては理由がないが、共有物分割の形成判決の確定を条件とする将来の給付の訴えとしては、被告市之助がミサとの贈与契約を主張し、被告らが本件各土地に共有持分を有することを否定しているなどの本件紛争の経過に鑑み、予め請求する必要があるものと認められる。
現在本件各土地のうち一ないし八の土地にはそれぞれ、被告市之助の持分が五分の二、被告三郎及び同ハルヱの持分が各五分の一、ミサの持分が五分の一とする登記がなされていることは当事者間に争いがない。そこで、前記のとおりに共有物を分割する裁判が確定した場合には、原告らはそれぞれ、本件各土地のうち一及び四の土地について、被告市之助に対してはその共有持分一〇分の一の、被告三郎及び同ハルヱに対してはその共有持分二〇分の一の所有権移転登記手続請求権を有することとなる。
二乙事件
甲事件で判示したとおり、ミサが、被告市之助に対し、昭和二九年七月三〇日ころ、本件各土地の共有持分を贈与した事実は、これを認めるに足りる証拠はないから、被告市之助の乙事件請求は理由がない。
三結論
よつて、本件各土地の共有物分割を求める原告らの甲事件請求は理由があるから、これを認容するとともに、判示のとおり本件各土地を分割することとし、被告らに対し所有権移転登記手続を求める原告らの請求は、共有物分割の判決確定を条件とする将来の給付を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、現在の給付を求める部分を棄却し、被告市之助の乙事件請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官福永政彦 裁判官山本博 裁判官峯 俊之)
別紙物件目録
一 札幌市東区北九条東八丁目一九番一
宅地 一三九〇平方メートル六七
二 同市同区北九条東八丁目三〇番一
宅地 三二六〇平方メートル四六
三 同市同区北九条東八丁目三〇番二
宅地 四二三平方メートル一四
四 同市同区北九条東九丁目二番
畑 一五〇〇平方メートル
五 同市同区北九条東九丁目四番
畑 一四五九平方メートル
六 同市同区北一〇条東九丁目一番
畑 一四八六平方メートル
七 同市同区北八条東八丁目三六番
宅地 三二三平方メートル九四
八 同市同区北九条東一一丁目七番
宅地 四一七平方メートル二四
九 同市同区北一六条東八丁目一〇番
宅地 二三七四平方メートル八一
一〇 同市同区北一六条東八丁目一九番
宅地 六〇二平方メートル七一
別紙図面<省略>